なぜプロマネ力が必要か
法務部で働き出した当初、「契約書を頑張ってもその大変さの割になかなか評価されない」いうことに悩みました。この原因は、経営者が日々課題として認識しているイシューと、契約業務がなかなか結びつきにくい所にあります。
その解決策として有効な方法のひとつが、経営者が課題として認識しているようなプロジェクトに参加し、貢献することです。
そのためには、問題解決能力、人を巻き込む力、資料作成能力など、いわゆるプロマネ・スキルが必要で、こういったスキルを磨くことは、法務パーソンとして生きていく上で身を守る武器になります。
はじめてのプロマネ
2021年、出向しているタイの子会社で、電子署名(Docusign)や電子請求書(E-tax inovice)のシステムを導入しながら社内の紙を3割削減するプロジェクトを立ち上げました。
システムの導入は、どんな小規模なものであっても「業務改革」の要素を伴います。業務フローを最適化してからシステムを導入しなければ、かえって手間がかかり、紙の使用量は増加しかねません。
また、いつの時代でも、仕事のやり方を変えたくない抵抗勢力がいます。
課題を整理し、周囲を巻き込みながら業務フローを変え、システム導入までこぎつけるには、それなりのプロマネ・スキルが必要です。自分にその力が足りないことは自覚していたので、プロジェクト立ち上げに際し、いくつかの本を読んで勉強しました。
おススメ本
業務改革の教科書
そのなかでもっとも役にたったのが、「業務改革の教科書」という本です。
著者が経営するコンサルティング会社が実際のプロジェクトで使っている方法論(作業手順や分析ツール、フォーマット)が詰まっています。
全社規模の大規模な業務改革はもちろん、電子署名導入のような局所的な業務改善プロジェクトでも参考になるところが多い良書です。
使い方の具体例
たとえば、「電子署名システムの有用性を経営者にプレゼンし、導入を承認してもらう」という場面を例にあげます。
「業務改革の教科書」の方法論を活用すると以下のようなアプローチとなります。実際にプレゼンに使った資料を一部加工して紹介します。
現状分析
まず現状の課題を浮き彫りにするために、スイムレーン・チャートを使います。スイムレーン・チャートとは、様々な役割の人が関わる業務をフロー形式で表現したものです。
契約の交渉~サインまでの業務フローをスイムレーン・チャートで表現すると以下のようになります。縦軸が関係者、横軸が時間の流れとなります。
課題の特定
スイムレーン・チャートを使うと、業務上どこに課題、ボトルネックがあるのかがよく見えます。
このチャートをみると、上下に何度も線がいったりきたりしており、社内手続のために営業⇔法務間で無駄なコミュニケーションが発生していることがわかります。Legal のGMが同じ契約を2度も承認するなど無駄が目立ちます。
また、紙のマークがあちらこちらで登場しており、紙を無駄に発生している様子がわかります。
業務の将来像を描く
このように現状の業務フローと課題を特定できたら、次に業務の将来像を描きます。
業務フローを効率的に見直した上で電子署名システムを導入すると、以下のような業務フローとすることができます。
営業部⇔法務部の間でのシステム上のやりとりはムダがないものとなり、紙のマークも大幅に減りました。
効果
このように現状分析→課題の特定→将来像という順番で考え、スイムレーン・チャートで表現すると、経営陣や他部署にとってもシステム導入の効果がわかりやすくなります。
その結果、経営陣はシステム導入の投資判断がしやすくなります。経営陣が応援してくれるようになると他部署や抵抗勢力も納得して協力してくれるようになります。
プロマネのやり方次第で結果が変わりますので、上手にやると自身の評価を高めることに繋がります。
これは一例で、「業務改革の教科書」には他にもすぐ使えそうなノウハウがたくさん記載されていました。プロマネ力を磨きたい法務パーソンにはお勧めの一冊です。