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企業で働く弁護士の研究ノート

企業が評価する優秀な法務部員とは?

企業で評価される優秀な法務部員ってどんな人なんでしょうか? 

法務部員にも会社での評価が高い人と、そうでない人がいます。評価が高ければ給料もあがりますし、何よりやりたい仕事やポジションを優先して与えてもらえます。

では、どうすれば評価されるのか? (マネージャーではない)担当者レベルという前提で、会社員生活10年間の観察結果をまとめてみます。ずっと同じ会社にいたので偏っていると思いますが・・。

①契約ドラフティング・レビュー、②コンプライアンス、③プロジェクト・マネジメントという3つの分野で「できる人」の特徴をまとめてみます。

①契約書のドラフティング・契約レビュー

契約のドラフティング、レビューが法務部の仕事のかなりの部分を占めている会社は多いと思います。

契約は奥深い世界ですけど、企業の法務部員への要求はシンプルです。

  1. 上手くいった場合は、想定通りの利益を確保できるようにしてほしい
  2. 上手くいかなかった場合は、想定外の損失が出ないようにして欲しい

これだけです。利益にも損失にも繋がらないようなマニアックなところで、激しく契約交渉するのはやめてほしいとすら思っています。

 

企業からみた優秀な法務部員というのは、利益・損失につながるポイントを見つけ出し、その大事なポイントを外さず契約で手当てできる人です。

言うは易く、行うは難し。時間をかけて契約交渉してるのに、利益・損失に直結するもっとも大事な条件が抜けている契約はザラにあります。大手の法律事務所がレビューしていても、です。なぜかというと、契約で失敗して損が出る(利益が出ない)のは90%以上、弁護士がビジネスマターとして企業に判断を委ねたところに原因があるからです。契約の教科書に出てくるような論点が原因となるのは10%以下です。

 

契約スキルの観点から、企業目線で「できる法務パーソン」を言語化すると次のような感じでしょうか。

  • ビジネスの成功(=利益)がうまれるまでの過程を要素分解して、関係者の権利義務という形で契約に落とし込むことができる。KPIを契約で表現することできる。
  • そのビジネスにおけるリスクファクターを時系列で立体的にイメージし、関係者の権利義務という形で契約に落とし込むことができる。

できる法務パーソンの傾向として、あるべき条項がないということに気づきます。

すでに見えている契約の条文に指摘することは割と簡単です。一方、ないものに気づくことは難しい。逆算して思考している人だけが「あるべき条項がない」ことに気づきます。

ビジネスでお金が生まれていくプロセスをイメージし、利益を確保するために契約相手にどのような義務を設定すれば良いかを逆算して考えている人は「あるべき条項がない」ことに気づきます。

ビジネスの展開を時系列でとらえ、具体的なリスクシチュエーションをイメージしていける人は、どういった条項が「足りない」のかに気づきます。

別の言い方をすると、役にたつ契約レビュー・ドラフティングをしようと思うと、その企業のビジネスモデル・業界の構造を理解していることが不可欠だということです。

その企業に入って直ぐには難しいけれど、キャリアを続けていくなかで次第にできるようになっていく人が優秀な法務部員として評価されていると思います。

②コンプライアンス

企業で働くまでは、コンプライアンスというのは、相談があったときに「やっていい」「やっちゃだめ」ということを回答する仕事だと思ってました。

実際はぜんぜん違います。

相談してくる人よりも、むしろ、相談してこない人が危ないのです。そういう相談してこない人たちがコンプライアンスできる仕組みを会社のなかでどう作っていくか、というところが仕事の肝になります。

ガチガチの仕組みをつくって業務のスピードを遅くしてしまっては競争で勝てません。一方で、一発退場となるような状況は防ぐ必要があります。現場の状況を良く理解しながら仕組みをつくっていきます。

要は、アクションプランを作って、関係者を巻き込みながら、人を動かす仕事です。エクセルとかパワーポイント、特にエクセルのスキルは必須です。そういった業務特性もあって、法律事務所よりも会計BIG4の方が幅を利かせています。

頭が良い人というよりは、広い意味でコミュ力高い人が向いており、評価も高くなります。

コンプライアンスの観点から、企業目線で「できる法務パーソン」を言語化すると次のようなイメージとなります。

自社に関係ある新しい規制法/規制緩和法/法律を超えた社会の要請を察知し、会社としての対応を実務レベルのアクション・プランに落とし込んで、関係部署を巻き込み、会社を動かすことができる。

③プロジェクトマネジメント

M&Aとか業務提携、あとは大きな紛争やトラブルに上手く対応できる人も評価が高くなります。

法律事務所の弁護士にはなじみが深い分野なのですが、インハウス・法務部員が同じことをやろうとすると評価につながりません。

社内の法務部員に求められるのは、プロジェクト・マネジメントです。契約書のドラフティングは外部の弁護士にサポートしてもらえばよく、経営者の意思決定に貢献することが求められます。

経営陣は、法務だけでなくいろいろなファクターを考慮して意思決定しますから、法務のことしかわかってないというのではあまり話を聞いてもらえません。経営戦略的に重要なポイントが契約にどのように反映されているのか、広報視点(世の中にどうアピールしていくのか?レピュテーションリスクは?開示要件との関係は?)、会計・税務的に重要なポイントはどうか? こういった幅広い視点をもちながら提案していく必要があります。

 

プロジェクト・マネジメントの観点から、企業目線で「できる法務パーソン」を言語化すると次のようなイメージとなります。

M&A・業務提携や大きな紛争案件の局面では、事業経営視点・広報視点(レピュテーション/開示要件)・会計税務視点なども意識しながら、法律上・契約上の論点を整理し、経営の意思決定をサポートできる。

「優秀な弁護士」と、「優秀な法務部員」の違い

優秀な弁護士と優秀な法務部員の違いは何か。

法務人材の場合、特定法分野における専門性はそこまで求められません。外部の専門弁護士と協働することで補えば良いからです。専門性が高いから評価されるということは少ないです。

また、法務人材は会社員なので、組織の歯車としてしっかり機能する必要があります。弁護士あるあるの「長文メール」「長文の意見書」は社内では役に立ちません。歯車というとイメージ悪いですけど、組織という装置を動かす力そのものに価値が認められます。

外部の弁護士であれば時間をかければタイムチャージを稼げます。弁護過誤の問題もあるので、「やれることはぜんぶやる」という傾向になりがちで、そういう人が評価されるようにも思います。一方、これを法務部員がやっても評価につながりません。不必要に長い時間をかけていると、ビジネスのスピードを遅らせたうえに残業代でコストを増やしているとみなされます。同じ条件を獲得するのであれば、かけた時間は短ければ短いほど評価が高くなります。

まとめ

こうやって改めてまとめてみると、法務部員にとって一番の資質は勤勉なことかもしれません。担当者レベルからマネジメントになれば、これに加えてマネジメント・スキルが必要になるわけですからね。どれだけ勉強して追いつきません。

一方、とりあえず10年たったくらいではまったく飽きることがありません。一般民事の弁護士をやっていたときは3年目に少し飽きがきていましたので・・これはインハウスのメリットかもしれません。これから10年後、20年たったときにどのような考えになっているか、楽しみです。