法務をもっと、おもしろく

企業で働く弁護士の研究ノート

日テレコメントに対する違和感の正体

X(Twitter)で話題になっていた、日テレのコメント。

芦原妃名子さんの訃報に接し、
哀悼の意を表するとともに、謹んでお悔やみ申し上げます。

2023年10月期の日曜ドラマ「セクシー田中さん」につきまして
日本テレビは映像化の提案に際し、原作代理人である小学館を通じて原作者である芦原さんのご意見をいただきながら
脚本制作作業の話し合いを重ね、最終的に許諾をいただけた脚本を決定原稿とし、放送しております。
本作品の制作にご尽力いただいた芦原さんには感謝しております。

※下線は筆者

1 なぜ炎上するのか

多くの人が引っ掛かりを感じたのは、下線部分ではないか。必要な手続きはとっており、著作権法上は問題がない、といっているように読める。

しかし、この局面で「法的に問題がない」ことを説明する必要はない。むしろ、法的に問題がないことを説明することで世間の感情を刺激し、よりいっそう炎上してしまったと思われる。

日テレにネガティブな感情を持った人は「日テレに法的に問題がある」と考えているわけではないだろう。ジャニーズ問題などもあり、テレビ局の誠実さ、インテグリティが問われている。

テレビ局は力関係で優位な立場にあり、周りの人たちを従わせることができる。その優位な立場を利用して製作を進め、原作者に精神的な負担をかけたのではないか(だとすると可哀そうではないか)ということを問題にしているのだと思う。

それなのに「法的に問題なかったけど、大変残念だ」といったコメントをしたので、「いや、そういうところなんだよ」と世間の感情を刺激してしまったと思われる。

2 類似事件

思い出されるのがカネカ・パタハラ事件(2019年)だ。

カネカで働く共働きの40代男性が1カ月ほど育休をとったところ、復帰後すぐに関西への転勤を命じられ、そのことで退職を余儀なくされた。男性の妻が、カネカの名前がわかるようTwitterでつぶやいたことにより、炎上した。

この炎上に対し、カネカは「転勤の内示は育休に対する見せしめ」ではなく、たまたま転勤の内示が育休明けになっただけであり、よって当社の対応に問題はないとコメントした。

【カネカの公式コメント】

https://www.kaneka.co.jp/topics/information/in20190606/

このカネカの対応に対し、危機管理の専門家である國廣正弁護士が著書「企業不祥事を防ぐ(日本経済新聞出版)」のなかで以下のように述べている。

「法的視点からすると、人事異動の事例の適法性が重要かもしれない。しかし、社会常識からすると、小さい子供の子育てを希望している父親を育休明けすぐに大阪に移動させるというのはあまりに気の毒ではないか、ということが問われている。

確かに、転勤命令自体は違法とはいえないだろう。しかし、世間の人たちは、「転勤命令が違法だ」と叫んでいるわけではない。転勤命令は合法かもしれないけれど、「もう少し事情を汲んであげてもいいのでは?」という「会社の配慮」を問題にしている。

(中略)

法律論で切り返す会社の対応は、「適法である以上、育休取得者に特別の配慮は不要」と言っていると受け止められてもやむを得ないものだ」(240P)

国廣弁護士は、「法律問題として対応してしまった」ことが問題の出発点だと指摘されている。

3 SNSの炎上と危機管理

日テレのコメントに対し、X(Twitter)では「法務が見ていないのではないか」という意見が流れていた。私の第一印象は逆で、むしろ、法務や弁護士が悪気なく、ついつい書いてしまいそうな文章だな、と思った。

法務や弁護士は、法的な反論が仕事の日常であるため、無意識なうちに、ものごとを「法律問題として」対応してしまう傾向がある。

しかし、企業のブランド・レピュテーションをマネジメントするという観点から致命的なミスを犯しかねない。

まさに、國廣正弁護士が指摘されたとおりだな、ということを改めて実感した。

※この本は、國廣弁護士自身が「自分自身の実務経験から得られたノウハウを出し惜しみせず分かりやすく書いた(300P)」と記載されているとおり大変勉強になります。