法務パーソンの学習帳

Be the lawyer-statesman. CLOを目指す企業内弁護士のブログ

新卒でインハウス(企業内弁護士)になることはアリか?

 数年前に採用担当をしていたとき、ロースクールの学生さんや修習生と数多く接しました。そのとき一番多く聞かれた質問は「新卒で企業の法務部に就職することのメリットとデメリット」です。

 ネット上をみても経験に裏付けされた記事は少ないようです。そこで、10年間のインハウス生活での観察を踏まえ、新卒インハウスはアリか?ナシか?整理してみます。

新卒インハウスの「メリット」

 結論からいえば、候補である会社の新卒メリットが大きい場合、又は行きたい企業が決まっている場合はアリだと思います。そうではなく、ただ迷っているだけなら法律事務所からキャリアをスタートしたほうが無難でしょうね。

①いわゆる新卒メリットが大きければアリ

 日本の大企業では「新卒メリット」というものがあります。

 生え抜きを大事にしたいという文化が根強いのか、新卒は育てなければならないという義務感からなのか、新卒であることで多くの教育機会が与えられます。

 たとえば、企業派遣での海外のロースクール留学はとても魅力的なチャンスです。この制度がある場合でも、事実上新卒でなければ使えないという会社は多いと思います。

②行きたい企業がきまっていればアリ

 また、特定企業のビジネスモデルや商品が気に入っていて、「その会社の」インハウスになりたいという場合も、新卒インハウスはありだと思います。

 その会社が中途を募集するかはわかりませんし、仮に募集したとしても中途を募集するときは組織の実情にあわせてターゲットを絞りますので、ご自身のタイミングと合わないことが多いでしょう。ですから、お目当ての会社が新卒で募集しているならそのチャンスを逃さないほうが良いと思います。

 また、新卒には「同期」というものがいて研修機会などを通じて親交を深め、連帯感が生まれます。インハウスが大企業で仕事をするうえでこの同期のネットワークはとても役に立ちます。「その会社」にいきたいのなら新卒でOKだと思います。

新卒インハウスの「デメリット」

①プラクティス経験を補う必要がある

 新卒インハウスの一番のデメリットは、法律事務所でのプラクティスで身につくドラフティングスキル、リサーチスキル、報告書作成スキルを、自分で工夫して磨いていく必要があるところです。

 というのも、大型投資案件の契約ドラフティングや、時間がかかるリサーチ、意見書作成は外部の法律事務所に依頼するので、自ら手を動かす機会が足りないからです。

 ここでよく誤解されるのが

外部の法律事務所に依頼すればいいんだから、法務部員はドラフティングやリサーチのレベルを高める必要はないんじゃないの?

 という点。これは実態と異なります。

 実際問題としては、インハウス・法務パーソンも、立場が上になればなるほど職人スキルを求められます。より正確にいうと、会社員である以上いつも職人であってはダメなのだけど、いざとなったら切れる刀が抜ける職人としての顔は必要ということです。

 立場が上になると、役員やトップ・マネジメントから直接、極秘案件を短納期で依頼されて、他の法務部員を誰も巻き込まず、外部弁護士にも頼らず、自分でアウトプットを出すことを求められることがあります。

 そういった難しい局面で、「いや外部弁護士に聞いてから」などと逃げたら、一瞬で経営陣の信用を失います。

 経営陣の信用を失えば、インハウスの一番大事な役割である「会社を動かす」という役割を果たせません。

 ですから、インハウス一本でキャリアを進める場合でも、まだ担当者である若いときにドラフティングスキル、リサーチスキル、報告書作成スキルをしっかり身に着けておくことが大事だと思います。

 漫然と法務部で仕事していても身につかないので工夫が必要です。

 具体的な事例をまとめた記事を以前書いたので、興味があればご覧ください。

inhouselawyer40.com

 

②収入の伸びが遅い

 新卒でインハウスになった5年目の弁護士と、5年目に法律事務所から転職してきた中途のインハウスとどちらが給料が高いでしょうか?

 一般的には、中途のインハウスの方が給料は高くなると思います。

 というのも、中途社員の給料は決めるときには、前職の給料を参考にするからです。5年目までに法律事務所で収入をあげてきた弁護士を採用するためには、人事制度の枠内でそれなりの給料を用意することになります。

 一方で、新卒社員の場合は、ほかの新卒社員と同じ給与テーブルにそって昇給していきます。

 このように新卒社員と中途社員では給与を決めるロジックが違うので、少なくても短期的には新卒インハウスの方が収入の伸びが遅くなります。(ただ、新卒の方が最終的な出世のアップサイドは高いかもしれず、長期的には逆転現象がおきるかもしれません)

まとめ

 以上、新卒インハウスのメリット、デメリットをまとめてみました。

 ただ、ここまで書いてきてなんですけど、結局はその組織にいる「人」が仕事の楽しさを決める一番大きなファクターなので、迷ったら誰と働きたいかという直感で決めてしまってよいと思います。

 最近は、新卒インハウスで、大手の法律事務所に転職するようなケースも出てきました。以前はインハウスになると法律事務所に戻れないといわれましたけど、そこまで不可逆的なキャリアでもなくなってきたようですしね。