企業法務をアーキテクトする

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タイ法務の知識②(タイの株式譲渡)

タイに来てから半年に一度くらいの頻度で株式譲渡を取り扱ってます。よく相談を受ける内容をまとめます。この記事でだいたいの相談に対応できるはず。

株式手続の概略を図にしてみると以下のような感じ。日本とは結構違いますね。

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以下、個別にみていきます。

1 株式譲渡の有効要件(株式譲渡証書)

タイには民商法(Civil and Commercial Code)という、民法、商法、会社法を合体させたような法律があります。株式譲渡の有効要件も、この民商法で決まっています。

民商法によると、株式を譲渡するためには、当事者の合意のほか、株式譲渡証書(Share Transfer Document)に署名することが必要です(民商法1129条2項)。

この株式譲渡証書は、株式譲渡の有効要件ではあるものの、当局に出すものではありません。なので、形式要件はそこまで厳しくありません。具体的にいうと

a)言語

英語でもいいし、タイ語でもいい。英語とタイ語を併記してあるものもみかけます。

b) 必要記載事項

譲受人・譲渡人の氏名、譲渡対象株式数のみ。実務上は、1株あたりの金額、株券番号など、譲渡株式を特定する事項がもう少し記載されています。

c)当事者の署名、立会人の署名

譲渡人、譲受人の署名は当然に必要。それに加えて、立会人(Witness)の署名が必要となります。法律上要求されている立会人は1人(民商法1129条2項)。ただ実務上は、譲渡人、譲受人それぞれの立会人ということで、2人の立会人がサインしているケースが多いです。ここでいう立会人に特に決まった要件はありません。担当者でOK

2 株券の返還、再発行

タイでは株券不発行制度がありません。株式会社は必ず株券を発行します(民商法1127条~1128条)。

そして、タイは日本と異なり株券は「記名式」が原則。つまり、株券に株主の名前が書いてあります。だから、株式を譲渡するときも、株券をそのまま譲受人に交付するようなことはしません。旧株券は会社に返還され、会社は譲受人に新株券を発行します。

3 印紙(Stamp Duty

タイの印紙税の税率はこちら ↓ 

Stamp Duty | The Revenue Department (English Site)

株式譲渡証書には、譲渡価格または払込価格のいずれか大きいほうの0.1%の割合で印紙が必要です。株券そのものにも5バーツの印紙が必要。なお、国外で作られた株式譲渡証書については印紙税かかりません。

4 取締役会の譲渡承認

日本と同じく、定款で定めることによって、株式譲渡に取締役会や株主総会の承認が必要となります。タイでは定款が2種類あり(基本定款と付属定款)、付属定款で取締役会の譲渡承認を定められているケースが多いです。 定款はタイ語だけど、日系企業では英語訳が用意されていることが多いはず。 基本定款はMemorandum of Association, 付属定款はArticles of Associationと訳します。

5 株主名簿と株主リスト

譲受人が株式譲渡の効力を会社に対抗するためには、新株主として株主名簿(Share Register Book)に登録される必要があります(民商法1129条3項)。

この株主名簿とは別に、株主リスト(Shareholders’ List)というものがあります。対象会社は、株主の氏名、住所、株券番号などを書いた株主リストをタイの当局(商務省事業開発局、通称DBD)に提出する必要があります。これは公示目的のためのもので、タイでは株主情報というのは公開情報の一つです。株主リストには、会社のAuthorized Directorの署名が必要です。

株式譲渡の一連のプロセスで当局に提出される書類はこの株主リストのです。

6 株式譲渡契約と株式譲渡証書との関係

株式譲渡証書というのは、民商法上の、譲渡有効要件を満たすために作られるもので、A4で1枚のシンプルなものであることが普通です。ですから、大型案件などで、表明保証とかいろいろ条件つけたい場合には、株式譲渡証書とは別に「株式譲渡契約」を作ることになります。別途株式譲渡契約を結ぶ場合には、株式譲渡証書は株式譲渡におけるクロージングドキュメントとして扱われることになります。