企業法務をアーキテクトする

企業内弁護士を、楽しく、やり甲斐があり、報酬にも恵まれた職業とするために試行錯誤する研究ノートです

日本製鉄 vs トヨタはどうなる?

10月5日、日本製鉄がトヨタ自動車と宝山鋼鉄を特許権侵害で提訴したというニュースが報道されました。日本製鉄が大口顧客のトヨタを訴えたとは驚きです。

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日本製鉄はあわせて200憶円の損害賠償も請求。

しかし、知財トラブルで特許権者が最終メーカーを訴えること自体は珍しいことではありません。というより、特許権者としては、最終メーカーへに差止請求することが王道です。特許権には物権的効果があるのでこれができます。そして、特許権者(日本製鉄)は、原料メーカー(宝山鋼鉄)より最終メーカー(トヨタ)をターゲットにしたほうがはるかに効果的に状況を変えることができます。ただ、系列の結びつきが強い自動車業界でトヨタをターゲットにした日系企業はいなかったのでしょう。

トヨタが負けたら?

トヨタへの影響は大きいはずです。賠償金もさることながら、原料鉄を切り替えることは簡単じゃなく、生産計画にも影響あるでしょう。かなりの損害です。

そのトヨタの損害は、商流をさかのぼって宝山鋼鉄に求償されるはずです。トヨタは日経新聞の取材に対し、「当該の電磁鋼板についても、取引締結前に他社の特許侵害ないことを製造元に確認のうえ、契約している」と答えていますので(10月15日の日本経済新聞の記事)、宝山鋼鉄(または介在している商社)との契約で、「当該電磁鋼板が他社の特許権を侵害していないこと」を保証させていると思われます。契約の内容次第ですが知財クレームで生じた損害はサプライヤーに求償できるようになっているでしょう。

今後の見通し

少なくても、日本製鉄やトヨタは和解で解決したいはず。ただ、宝山鋼鉄が特許侵害を認めず供給継続にこだわれば、日本製鉄は振り上げた拳はおろせません。一方で、宝山鋼鉄側も突っ張ることが得策とは言い切れません。特許侵害が認められる可能性が高ければ、求償される損害賠償の大きさ、今後の別取引への影響等を考えて和解に応じる可能性はあります。日本製鉄はおそらく賠償金とることにはこだわらないので、今後の供給を取りやめれば和解が成立しそうです。

ということで、最終的には和解でおわる可能性が高いとみてますけど、、、どうでしょうか・・・(まったく部外者ですので、すべて妄想です。)

知財保証に関する契約のポイント

ところで、商社で働いていても、知財クレームに巻き込まれることは良くあります。たとえば、本件で、宝山鋼鉄とトヨタの間に商社が介在していれば、トヨタが求償する相手は商社となり、商社が宝山鋼鉄に求償しなければいけません。一般論としては製法に高度な技術を要する原材料の取引では知財クレームが発生しやすく、経験上は、高機能な樹脂、半導体などでよく見かけます。半導体の取引では特許権者がアメリカの半導体メーカーだったりして、海外から飛び道具のように知財クレームが飛んできます。

売買契約で知財保証しなければ良いんですけど、そういうわけにもいきません。自社やサプライヤーの商品が世界中の特許を侵害していませんと言い切れる会社はほとんどないはずで、冷静に考えると厳しい保証です。しかし、知財クレームのリスクを売主と買主のどちらがとるべきかと言われれば、そりゃ売主でしょう。知財保証すること自体はやむを得ないプラクティスです。

知財保証そのものを限定しようとするよりは、損害の範囲を限定する方法を考えたほうが生産的です。たとえば、知財クレームが発生した時に、特許権者(本件でいう日本製鉄)と最終メーカー(本件でいうトヨタ)との間で勝手に和解条件を決めさせないような条項は合理的です。最終的に売主に求償できるからといって不合理に高額な和解を成立させられるリスクはありますので、そういったリスクは回避しておきたいところです。