最近、勤務先で電子署名(Docusign)を導入しました。導入プロセスを通じていろいろ学びがあったので、ポイントをブログにまとめておきたいと思います。
なお、私は商社で10年ほど企業内弁護士をしており、今はタイにある現地子会社に出向して法務部長をしています。タイの現地子会社にて、このたび電子署名(Docusign)を」導入しました。
どうやって手を付けるか
業務改善として取り組む
振り返ってみると、スムーズに導入できた一番のポイントは、業務改善の一環として取り組んだ、ということです。
海外子会社の場合、めちゃくちゃ非効率な業務が横行しています。法務部でも、全契約で私の承認が必要だったり(過剰管理)、ルール上私が2回承認しないといけない契約があったりします(仕事の重複)。
業務非効率が横行するなかで、「仕事の効率化のために電子署名を導入しよう!」といったところで、経営陣からは「なんか施策がピンポイントすぎない? それだけで現状が良くなるとは思えないんだけど・・・」という反応が返ってきます。
ですから、業務改善そのものに正面から取り組み、その手段として電子署名導入を組み込んだ方が良いと判断したのです。
とはいえ、私は業務改善のプロではなく、経験があるわけではありません。付け焼刃で勉強しました。プロジェクトを進めるうえではこの本がめちゃくちゃ参考になりました。この本で書かれている手法を用いながら、以下のように業務改善プロジェクトを進めていきました。
ボトルネックを見える化する。
以下のパワポは縦軸に関係者、横軸に時間の流れをとって、業務フローを見える化したものです。このように図示すると、業務上どこにボトルネックがあるのか、どこで無駄に紙が発生しているのかが良くわかります。以下のパワポでは上下に線がいったりきたりしており、社内手続のために営業⇔法務間で無駄なコミュニケーションが発生していることがわかります。また、紙のマークがあちらこちらで散見されます。
そのうえで、業務フローを効率化し、電子署名を導入したら、こんなに効率的になりますよ、という見せ方をします。
上の図で頻発していた紙のマークは、下の図ではほとんど出てきません。
このプレゼンは、経営陣の受けがめちゃくちゃ良かったです。「ぜひ、電子署名の導入を具体的に進めてくれ」と、初期段階で全面的な賛同を得られました。その結果、その後のプロジェクトを大変スムーズに進めることができました。
こういった業務改革をしようとすると、現状を変えたくない現場のスタッフから必ず抵抗にあいます。しかし、経営陣がゴーサインを出していれば錦の御旗があるので何とか推進できます。
プレゼン資料は「業務改革の教科書」で紹介されていたスイムレーンチャートの作り方を参考にして作りました。
ペーパーレス推進の全体像を意識する
法務部員はどうしても電子契約のみに注目しがちです。
しかし、経営陣は会社全体としてペーパーレスを促進することを求めており、電子契約はその一手段にすぎません。
そこにギャップがあります。
そのギャップを埋めるべく、ペーパーレス推進の全体像を俯瞰したうえで、電子署名を使うべき場面を特定しました。
商社である当社の場合、社内で大量発生している紙を分類すると以下のようになりました。
- 個別売買契約書 (Sales Confirmation「S/C」, Purchase Order「P/O」
- その他の契約 (NDA, Service Agreement等)
- 請求書 (Tax Invoice)
- 社内申請書 (AP AR計上依頼書、支払依頼書、為替予約依頼書など)
- 物流関係の書類 (Bill of Lading「BL」. Letter of Credit 「LC」)
このうち、5. 物流関係は特殊なルールで紙が必要とされているので検討対象外としました。
3. 請求書(Tax Invoice)は、タイでは付加価値税(VAT)の処理のために必要ですから、税務署とつなぐことが出来る別システムでフォローすることにしました。
4. 社内申請書については、当初はDocusignでペーパーレス化することを考えていました。しかし、数が多すぎて従量課金のDocusignではコストがかかりすぎて断念。そもそも社内申請書の場合、契約と違って文書の成立の真正(署名者の意思に基づき作成されたこと)が問題になりにくく、Docusignほどの認証機能は必要ありません。そこで固定フィーで導入できる文書管理システムを導入してペーパーレスにすることにしました。
以上のような検討の結果、1.個別売買契約書と、2.その他の契約の分類のみ、電子署名(Docusign)を導入することになりました。
こういった検討は法務以外の他部署を巻きこむ必要が出てくるので大変です。しかし、単に「電子署名を導入すれば効率的になる」という積み上げ的なアプローチよりも説得力があり、経営陣からのフォローは得られやすいです。
経営陣の了解を得てしまえば、コストについても文句を言われません。
ガイドラインを策定する。
導入にOKをもらえたら、社内ガイドラインを作っていきます。ガイドラインというと大げさですが、要するに利用マニュアルです。
法律上、紙の書面が必要な契約については電子署名(Docusign)は使えません。
また、法律上はOKでもある程度以上の重要契約については電子署名を避けたほうが無難でしょう。たとえば合弁契約などです。 (タイではヨーロッパや日本のように行政が業者にお墨付きを与える仕組みがなく、裁判所での取り扱いはより不安定です)
こういったことを踏まえて、実際にDocusignをどういうルールで運用していくか、社内でガイドラインを作りました。ガイドラインを策定できれば、Docusignと契約を結んで利用開始です。
まとめ
「電子署名が法律上どう扱われるかをまず研究しよう」として、止まってしまっている会社もあるようです。
ですが、個人的には電子署名のリスクは「取って良いリスク」であると考えています。
署名の有効性を争われたら、裁判で争えばいいのではないでしょうか。社会貢献になるし、会社のレピュテーション上はむしろプラスだと思います。
こういったリスクは取って正解だと思います。
電子署名の導入プロジェクトなどは法務部のプレゼンスをあげる絶好の機会だと思います。契約をいくら頑張っても経営陣には伝わりにくいけど、こういったプロジェクトをうまく進めれば経営陣の信頼は確実にアップします。
プロマネこそ法務の活路だ!とすら思ってますので、今後も頑張って取り組んでいきます。