企業法務をアーキテクトする

企業内弁護士を、楽しく、やり甲斐があり、報酬にも恵まれた職業とするために試行錯誤する研究ノートです

時給20万の弁護士が教えてくれたこと

企業内弁護士のMです。

今まで出会ったなかで最もアワリーレートが高い弁護士はアメリカ人弁護士のエリック・シルバーマン。それでいてクライアントの受けは抜群です。彼が高額のアワリーレートをチャージできる理由を分析すると、秘訣はプロジェクトの単価が高い業界に特化したうえで、結果にコミットした仕事ぶりを徹底しているところにあります(あくまで姿勢の話で、本当にコミットするわけではありません) 。

シルバーマンとの出会い

以前、自己紹介のエントリーで「選ばれるプロフェッショナル」という本に描かれていたエリック・シルバーマン弁護士の姿に刺激を受けて、企業内弁護士になったことを書きました。

 

inhouselawyer40.com

 

この本を読んでいた当時はまったく予想していなかったのですが、入社して8年目、なんとそのエリック・シルバーマン弁護士と一緒に仕事する機会がありました。

 

このころ、私は北米の発電所を売却する案件を担当しており、その案件を現地でサポートしてくれたのがエリック・シルバーマン弁護士だったのです。これはまったくの偶然で、私もニューヨークで挨拶してはじめて、かつて本で出会ったことがある弁護士であることに気がつきました。 

 

約1年間、シルバーマンと一緒にプロジェクトに取り組み、毎週の電話会議や現地への出張を通じて、彼の仕事振りを目に焼き付けることが出来ました。

シルバーマンはアグレッシブなアメリカ人というよりはperseptiveで日本人的な要素も持ち合わせている弁護士です。ただ、その仕事振りには独特の強烈なインパクトがありました。

 

シルバーマン弁護士のアワリーチャージはたしか20万円近かったと思います。しかし、クライアントが誰一人文句を言いません。それはなぜなのでしょうか?

 

私の分析によると、それはシルバーマンが「いかに良い結果をクライアントにもたらすか」を第一に考えて行動しているからです。「良い法律サービスの提供」ではないところがポイントです。

 

発電所の売却案件でクライアントにとって「良い結果」とは何か。それは、より確実に、より高い値段でこの発電所が売れることです。安全であればなお良い。ただし、安全であることはクライアントにとって一番の優先順位ではありません。

 

たとえば、法務デューデリジェンスの一環として、発電所買主候補からインタビューを受ける場面。この場面で弁護士はどういうアドバイスをするか?普通の弁護士は、将来リスクを負わないようなアドバイスをするはずです。売却が「安全であること」のためにアドバイスをします。

 

しかし、シルバーマンはそれは当然の前提として、プラスアルファで「より確実に」、「より高く」売れるための仕事をします。

 

シルバーマンが私に以下のようなことを話したことがあります。

 

「Mさん、買主からのインタビューに身構える気持ちはわかる。だけど、買主によるインタビューを、マーケティングの場としてとらえてごらん。発電所のキーマンが質問に完璧に回答して、ポジティブな態度を示していたら、買主候補はどう思う?この発電所がますます欲しくなるだろう?」

 

シルバーマンは、プロジェクトの最初の段階から、発電所のキーマンに案件成立と連動させた報酬パッケージを用意するよう私たちにアドバイスしていました。最初はなんでそんなことをアドバイスするのだろう?と思ったけど、「発電所を売り抜ける」というゴールから考えれば、発電所のキーマンをうまくつなぎ留めておくことは極めて重要です。

オーナーがチェンジするとわかっているなかではその会社のキーマンは精神的には不安定になり、いつ辞められてもおかしくない。シルバーマンは、頻繁に食事会を開催しては、細やかな気配りで発電所のキーマンを接待していました。

 

クライアントである我々が「発電所を確実に、高く売り抜ける」ためには、発電所のキーマンに協力的に動いてもらうことが何より大事であるからこそ、シルバーマンはそのために必要な提案していたのだいうことを理解しました。

「これは弁護士の仕事ではない」ということは簡単です。しかしシルバーマンにはそういう発想はないんでしょう。結果を出せるか、出せないか、そういう発想で仕事をしているのだと思います。

 

これはほんの一例であり、シルバーマンはすべての局面において結果ファーストの姿勢を徹底しています。知識の範囲も広く、業界のプラクティス・スタンダードにも精通しており、もはや弁護士というよりビジネス・コンサルタントといった方がイメージが近い。

 

要するに、シルバーマンは、一般的な弁護士とはコミットしているレイヤーが違ったのです。普通の弁護士が良いリーガルサービスを提供することにコミットしているのに対し、シルバーマンはクライアントが望んでいる結果を手に入れることにコミットしていました。

 

それが、アワリーチャージ20万円でも文句を言われない秘訣だと思います。

 

『クライアントの状況、文化、政治、業界をとりまく状況などを踏まえ、本当にクライアントになることを考え、アドバイスし、実行に移す。その文脈のなかで自身の専門性も発揮する』選ばれるプロフェッショナル2P

 

シルバーマンは「選ばれるプロフェッショナル」に描かれていた通りの仕事を実践していたのです。

 

このとき一緒に案件を担当していたたプロジェクト・マネージャーの言葉が印象的です。

 

「シルバーマンに頼むといつも良い結果になる。だから時給が高くても不満に思ったことはない」

 

シルバーマンが教えてくれたこと

私個人としてはこの案件ではたいしたバリューを発揮できませんでした。シルバーマンのいう通りにやっただけです。しかし、日本に帰ると、役員からは「うまく売却してくれてありがとう」と感謝されました。いくら高くてもシルバーマンが選ばれる理由を改めて実感しました。

 

シルバーマンは私に企業内弁護士として進むべき道を示してくれました。

 

『クライアントの状況、文化、政治、業界をとりまく状況などを踏まえ、本当にクライアントになることを考え、アドバイスし、実行に移す。その文脈のなかで自身の専門性も発揮する』

 

弁護士が法律サービスの提供だけに自らの役割を限定すること一種の逃げかもしれないと思うようになりました。少なくても企業内弁護士はクライアントが良い結果を出せるようコミットすべきだと思います。

そのために、法律以外の知識が必要であれば勉強しなければいけない。政治、文化、業界知識、ビジネスの知識、人脈、あらゆる手段をつかって結果を出すことを求められていることを痛感した案件でした。