法務パーソンの学習帳

Be the lawyer-statesman. CLOを目指す企業内弁護士のブログ

憧れの弁護士が教えてくれたこと

 世の中には「高い報酬」を請求し、なおかつ依頼者から絶大な信頼を得ている、スーパースターのような弁護士がいます。

 今まで一緒に仕事をしたなかでは、Milbank LLPというニューヨークの法律事務所のEric Silverman弁護士(以下「エリック」)がそうでした。エネルギー・インフラ分野の専門家です。

 彼のアワリーレートは一緒に仕事した2017年当時で20万円くらい。それだけチャージしてクライアントの受けは抜群です。

 彼は他の弁護士といったい何が違うのでしょうか?

 1年ほど一緒に仕事して感じたのはエリックは一般的な弁護士よりはるかにクライアントが結果を出すことにコミットしているということ。

 以下の記事でエピソードを紹介したいと思います。

エリックとの出会い

 はじめてエリックのことを知ったのは書籍でした。弁護士になってすぐの頃、「選ばれるプロフェッショナル」という本のなかで描かれていました ↓内容はこちら

inhouselawyer40.com

 

 それから約10年後、商社の企業内弁護士に転身した私は、幸運にも偶然、エリックと一緒に仕事をすることになりました。

 当時、勤務先の商社は北米で発電所を運営していました。戦略的な理由でその発電所運営会社の株式を売却する方針となり、その売却案件を現地でサポートしたのがエリックだったのです。

エリックは「結果にコミット」していた。

 約1年間、エリックと一緒にプロジェクトに取り組み、毎週の電話会議や現地への出張を通じて、彼の仕事振りを目にしました。

 観察していて気づいたのは、エリックは、いかに「良い結果」をクライアントにもたらすか」を第一に考えて行動してる、ということです。「良い法律サービスの提供」ではないのがポイントです。

 

 発電所の売却案件でクライアントにとって「良い結果」とは何か。それは、より確実に、より高い値段でこの発電所が売れることです。

 

 買主候補による監査への対応として、買主候補によるインタビューの準備をしていたときのことです。エリックは私に次のようなことを話しました。

 

 「HiMizuさん、買主候補による監査インタビューは、売主にとってマーケティングの機会でもあるんだよ。発電所のキーマンが買主からの質問に完璧に回答して、ポジティブな態度を示していたら、買主候補はどう思う?この発電所がますます欲しくなるだろう?」

 

 エリックのこの言葉を聞いたときに、私はハッとしました。今まで不可解に思っていたことがすべてつながったのです。

 

 思い返せば、エリックはプロジェクトの最初の段階で、発電所のなかで最も重要な役割を担っているキーマン2人に、案件成立と連動させた報酬パッケージを用意するよう私たちにアドバイスしていました。

 当初は、「弁護士がなんでそんなことをアドバイスするのだろう?」と思っていました。

 ただよく考えてみると、「発電所を高く、確実に売却する」というクライアントのゴールから考えれば、発電所のキーマンをうまくつなぎ留めておくことは極めて重要なファクターです。

 エリックからすれば、クライアントが良い結果を出すために優先順位が高いイシューに対し手を打っていたのです。

 

 一般にオーナーがチェンジすることを察知すると、対象会社の従業員は精神的には不安定になります。いつキーマンが辞めてもおかしくない。そこで、エリックは彼らをプロジェクトに巻き込み、同じベクトルで協働するためのインセンティブを設計したのです。

 それだけではなく、エリックは頻繁に食事会を開催しては、細やかな気配りで発電所のキーマンを接待していました。

 

 「これは弁護士の仕事ではない」ということは簡単です。しかしエリックにとって法律業務であるかどうかは重要でなく、クライアントが望む結果を出すことに必要なことかどうかが判断基準のようでした。エリックは、当局の動向、プロジェクトファイナンスを提供する銀行の考え方にも熟知しており、クライアントが良い結果を出せるようガイドしていました。

 もちろん、一般的な弁護士の仕事もきっちりこなします。ただそれだけではありません。

 クライアントの状況、文化、政治、業界をとりまく状況などを踏まえ、本当にクライアントのためになることを考え、アドバイス、実行に移す。あくまでその文脈のなかで法律の専門性を発揮するというスタイルでした。

 

 一緒に案件を担当していたプロジェクト・マネージャーのコメントが印象的です。

「エリックに頼むといつも良い結果になる。だから時給が高くても不満はない」

信頼されるプロフェッショナルになるために。

 エリックの専門分野であるエネルギー・インフラプロジェクトの分野は、一つのプロジェクトの金額が数百億円、数千億円となることがあります。ディールの規模が大きいことが報酬の高さにつながっている側面もあるでしょう。

 

 ただ、私はエリックが、クライアントに良い結果をもたらすことにこだわり、幅広い領域でクライアントをサポートをしている姿が印象的でした。

 そして、これは、インハウス弁護士である私自身が目指すべき姿でもあると感じたのでした。彼の姿をイメージしながら信頼されるプロフェッショナルを目指したいと思います。

クライアントの状況、文化、政治、業界をとりまく状況などを踏まえ、本当にクライアントのためになることを考え、アドバイス、実行に移す。あくまでその文脈のなかで法律の専門性を発揮する

 

 毎日のように自分に言い聞せながら仕事に取り組んでいます。