企業法務をアーキテクトする

企業内弁護士を、楽しく、やり甲斐があり、報酬にも恵まれた職業とするために試行錯誤する研究ノートです

企業法務未経験でインハウスになったら

総合商社の法務部に転職したものの、企業法務はほぼ未経験。しかし、誰も、契約書のドラフティングやレビューの仕方を教えてくれない。私が企業内弁護士になったころは組織も未成熟、指導体制は整っていませんでした。そんなこと教えられる人が社内にいないからこそ、私は採用されたのだともいえます。

 

指導者がいない環境でどのように企業法務を学べばよいのか?これは企業法務未経験で入社したインハウスにとって難しい課題です。

 

私の場合は色々試行錯誤しながら「外部の法律事務所の弁護士から」多くを勉強させていただきました。具体的にどのように方法を使ったかをご紹介しますので、若手の企業内弁護士の方に参考になれば幸いです。

インハウスに企業法務のプラクティスは必要ないのか?

企業内弁護士と法律事務所の弁護士とは役割が違うといわれます。その言葉自体は正しいです。大型投資案件の契約ドラフティングは外部の法律事務所に頼めばよく、自らドラフティングする必要はありません。

 

しかし、だからといって「企業内弁護士のドラフティングやリサーチのレベルが低くて良い」というのはあまりに飛躍しているし、実態とも異なります。

 

実際問題として、企業内弁護士はある程度ポジションがあがったとしても「いざとなったら切れる刀が抜ける」職人としての顔は一定程度は必要です。普段は職人の顔はむしろ隠しているものの、肝心なところではバチっと自らドラフトして周囲を引っ張っていくことが必要な局面があったりします。

 

感覚的にいうと1割、2割くらいは職人としての顔が必要です。

誰もが解決方法がわからないでいる難しい局面で企業内弁護士が逃げたら一気に信用を失います。ポジションがあがっても、いや、むしろポジションがあがればあがるほど、職人スキルを一瞬のキラメキとして発揮することを求められます。

 

企業内弁護士は「会社を動かす」ことが仕事です。会社を動かすためには経営陣の信頼を得なければいけない。実務家としてのスキルがなければ信頼を得ることは容易ではありません。いざというときにバチっと決めて、社内での信頼を獲得していく。それによって、会社を動かす影響力を手に入れることができるのです。

 

ですから先々のことを考えると、なんとしてでも、まだ担当者である若いときにドラフティングスキルやリサーチスキルをしっかり身につけておくことが大事だと思います。

 

経験を重ねれば自然に身につくのか

では企業内弁護士として経験をつめば自然とドラフティングスキルやリサーチスキルは身につくのでしょうか?これは明確にNOであると思います。漫然と企業内弁護士の仕事をしていたら絶対に身につきません。なぜなら、企業内弁護士のアウトプットは外部の法律事務所ほど厳しいフィードバックに晒されないからです。

 

法律事務所の素晴らしいアウトプットを読んでると、自分も実力がついたような気がするものですが、残念ながらそれは幻想です。

 

大変不都合な真実として、自分で手を動かさない限り、ドラフティングやリサーチの技術は決して身につきません。

外部の弁護士からの学び方

ではどうすればよいのか? 私のなかでは「外部の弁護士との協働の過程で手を動かす」ことがおススメです。私の場合は以下のようなことに取り組んでいました。

①アジェンダと議事録をつくる。

外部の弁護士と会議をする前には、誰に頼まれなくても必ずアジェンダ(相談事項メモ)を作成し、事前に弁護士に送付します。

 

そして、会議が終わったら、誰に頼まれなくても自ら議事録を作ります。その議事録は、関係者だけでなく弁護士に見てもらうと、なお勉強になります。

 

議事録をつくると自分の理解が不十分なところが浮き彫りになります。理解が怪しいと思えば弁護士に電話して教えてもらえばよい。

 

相談メモと議事録を作ることで、外部弁護士の思考過程と自分の思考過程の差分が浮き彫りになります。その差分を認識することが実力をつける第一歩です。

②外部の弁護士の仕事の一部を担当させてもらう

外部の弁護士の仕事の一部を担当することもおすすめです。

 

外部弁護士に依頼する契約のファースト・ドラフトを担当させてもらったり、外部弁護士に依頼するデューデリジェンスのチームに入れてもらって一部を担当させてもらう。

 

外部の弁護士にとってはこれは大変やり辛いと思います。だから、付き合いの深い法律事務所である必要がある。私は上司にお願いし、付き合いの深い弁護士に頼んでもらっていた。

 

実際、わたしは複数の案件でこの方法を使わせていただきました。私のファーストドラフトやデューデリジェンスレポートは、大手事務所のシニアアソシエイトにボコボコに叩かれたが大変勉強になりました。

 

私が管理職になってからは、部下の新人インハウスにもこのスキームを使わせていただいた。たまたま周囲の弁護士が寛容だっただけかもしれないけど、ある程度汎用性はあるやり方だと思います。

 

もっとも、せいぜい入社2~3年目までの若手にしか使いにくいのは確かです。あと、年下のアソシエイトにボコボコに修正されても謙虚に受け止めるというのは当然のマナーですね。

③出向で来ている弁護士と組ませてもらう。

②と同じようなものだが、外部弁護士が出向で来てくれている場合、その弁護士と組んで難易度の高い仕事に取り組むことで大いに成長できると思います。

 

ここでありがちな失敗は、出向の外部弁護士に仕事を丸投げしてしまうというパターン。これではまったく実力がつきません。繰り返しとなりますが、手を動かさなければ実力はつきません。

 

自らがまずは手を動かし、その出向弁護士にレビューしてもらう。そのプロセスをとることによって一気に実力がつきます。

 

ただ、このやり方の場合は出向弁護士に手間をかかさせてしまうので、教えてもらう企業内弁護士が謙虚であることはもちろん、上司からのフォローも必要だと思います。

④社内でつかうひな形、サンプルを作成する。

社内でころがっている同種契約を集め、差分を比較し、その必要性を判断し、ひな形をつくり、サンプルを作成する。そして作ったサンプルは外部弁護士にレビューしてもらう。

この一連のプロセスを一人で取り組めば、ドラフティング・スキルが大幅に向上すること間違いなしです。

サンプルを作る仕事は、積極的に拾いましょう。

 

新卒インハウス問題

新卒でインハウスになるとスキルが身につかないとの問題提起がしばしばなされます。

これは言い過ぎだと思うけど、確かに企業内弁護士は外部弁護士に比べると自ら手を動かす機会が少ないと思う。また、プロからの厳しいフィードバックを受ける機会も少ない。だから、企業内弁護士は手を動かし、プロのフィードバックを受ける機会を自発的に求めていく必要があるように思います。それさえできればなんとか最低限のスキルは身につくのではないでしょうか。